組織の成功循環モデル
「もっと主体的に動いてほしい」
「チームでもっと協力してほしい」
「もっと成果を上げてほしい」
組織やチームを良くしようとするとき、私たちはつい、メンバーの「行動」や「結果」に目を向けがちです。
けれども、継続的に成果を生み出す組織をつくるためには、その前に目を向けるべきものがあります。
それが、「関係の質」です。
この考え方を示したものが、Daniel H. Kim氏の「Core Theory of Success(組織の成功循環モデル)」です。
Kim氏は、組織における成功の循環を、
関係の質→ 思考の質→ 行動の質→ 結果の質→ さらに関係の質へ
という循環で捉えています。
【好循環】

関係の質が高まることで、より多様な視点を共有できるようになり、思考の質が高まる。
思考の質が高まれば、より良い計画や連携、主体的な行動につながる。
そして、行動の質が高まることで結果の質も高まり、その成果をともに実感することで、さらに関係の質が高まっていきます。
Kim氏の原典では、関係の質が高い状態として、チームスピリット、相互尊重、信頼などが挙げられています。
一方で、この循環は、悪い方向に働くこともあります。
成果が出ないとき、結果だけを急いで求めることで、職場に過度なプレッシャーがかかり、責任の押し付け合いが生まれることがあります。
関係がぎくしゃくすると、意見を言いにくくなり、思考は萎縮します。
思考が萎縮すれば、行動は指示待ちや受け身になり、結果はさらに悪化する。
そしてまた、結果を急ぐ──。
【悪循環】

「うちのチームにも、思い当たることがある」と感じる方もいるのではないでしょうか。
大切なのは、成果を上げたいときに、結果だけを変えようとしないことです。
では、「関係の質」はどうやって高めるのか?
「関係の質が大切なのは分かった。でも、具体的には何をすればいいの?」
ここが、組織づくりでは難しいところです。
「今日からもっと信頼し合いましょう」
「本音で話しましょう」
「もっとコミュニケーションを取りましょう」
そう言われても、それだけで人間関係が変わるわけではありません。
普段あまり自分のことを話していない相手に、突然、
「本音を話してください」
と言われても、簡単には話せないものです。
そこでトリプルバリューでは、「関係の質」を高める前段階として、「環境・場の質」を整えることが重要だと考えています。
これは、Kim氏の成功循環モデルに「環境・場の質」という5つ目の要素がある、という意味ではありません。
成功循環モデルを組織づくりの現場で実践するうえで、私たちが大切にしている考え方です。
安心して話せる。
否定される心配がない。
正解を求められない。
自分の考えを話しても大丈夫だと思える。
こうした場があるからこそ、人は少しずつ自分のことを話せるようになります。
そして、相手のことも知ることができます。
関係の質を高める第一歩は、「相手を知ること」
では、その場で何を話せばよいのでしょうか。
私たちが一つの入口として大切にしているのが、「価値観」です。
私たちが普段、相手について見ているのは、その人の目に見える行動です。
「あの人、なんであんな言い方をするんだろう」
「どうして、すぐに行動してくれないんだろう」
「なぜ、そこまで細かいことにこだわるんだろう」
仕事をしていると、相手の言動にイラッとしたり、違和感を覚えたりすることが皆さんもこれまでにあったのではと思います。
でも、私たちが見ているのは、その人の表面に現れた「言動」です。
その言動の背景には、その人なりの考え方があります。
そして、そのさらに根っこには、
「自分は何を大切にしているのか」
という価値観があります。
たとえば、慎重に確認してから行動する人が、「正確さ」や「責任」を大切にしていると分かれば、
「だから、確認を丁寧にしていたんだ」
と受け取り方が変わるかもしれません。
反対に、すぐに行動する人が「挑戦」や「成長」を大切にしていると知れば、
「だから、まずやってみようとするんだ」
と理解できるかもしれません。
相手の行動そのものが変わったわけではありません。
変わったのは、その行動を見る側の理解です。
価値観を知るということは、相手と同じ考えになることではありません。
「自分とは違うけれど、この人はこれを大切にしているんだ」
と理解することです。
この相互理解の積み重ねが、関係の質を高める一つの入口になると、私たちは考えています。
でも、自分の価値観を言葉にするのは難しい
では、
「あなたが大切にしている価値観は何ですか?」
と聞かれたら、すぐに答えられるでしょうか。
意外と難しいものです。
自分にとって当たり前のことほど、自分では気づきにくいからです。
また、職場でいきなり、
「自分について話してください」
と言われても、何から話せばよいのか迷ってしまいます。
そこで活用しているのが、エンゲージメントカードです。
エンゲージメントカードは、自分が大切にしている価値観をカードを使って可視化し、その理由を語り合うことで、お互いを知るための対話を生み出すツールです。

まず、対話できる「場」を整える
カードワークを始める前に、まず参加者同士で、「どんな場にするか」を共有しておきます。
たとえば、
・否定しない
・価値観に正解・不正解をつくらない
・相手の話を評価しない
・無理に話したくないことまで話す必要はない
・まずは相手を知ろうとする
こうした前提があることで、安心して自分のことを話しやすくなります。
これが、私たちが大切にしている「環境・場の質」です。
エンゲージメントカードを使った「価値観発見ワーク」

エンゲージメントカードの基本のワークでは、4〜6人1組で行います。
最初に配られた7枚のカードを、中央の山や他の参加者が手放したカードと入れ替えながら、自分にとって大切な価値観を選んでいきます。
最終的に、一人ひとりが「自分にとって大切な7枚」を残します。
そして、選んだ7枚を見せ合いながら、なぜその価値観を大切にしているのかを語り合います。
ここで重要なのは、「何を選んだか」ではなく、「なぜそれを大切にしているのか」を知ることです。
例えば、同じ「挑戦」というカードを選んでいても、
「新しいことに取り組んでいるときが、一番自分らしいから」
という人もいれば、
「以前、挑戦した経験が自分を大きく成長させてくれたから」
という人もいるでしょう。
同じ価値観でも、その背景にある経験や想いは一人ひとり違います。
だからこそ、相手の話を評価するのではなく、関心を持って聞くことが大切です。
「どうして、その価値観を大切にしているんだろう?」
「何かきっかけがあったのかな?」
そんな問いかけから、普段の仕事では知ることのできなかった相手の一面が見えてくることがあります。
価値観を共有する目的は、相手を分類したり、同じ考えにそろえたりすることではありません。
お互いの違いや、その背景にある想いを知ることです。
「この人は、こんなことを大切にしていたんだ」
「だから、あのときあんな行動をしていたのかもしれない」
そんな小さな発見が、相互理解を深めるきっかけになります。
組織の好循環は、安心して話せる「場」から
Daniel H. Kim氏の成功循環モデルでは、関係の質 → 思考の質 → 行動の質 → 結果の質という循環によって、組織の成功を捉えます。
トリプルバリューでは、この循環を組織の中で生み出していくための土台として、「環境・場の質」を整えることを大切にしています。
私たちの考え方を整理すると、次のようになります。
環境・場の質を整える|安心して話せる場をつくる
↓
価値観を知る・相互理解を深める|自分と相手の大切にしていることを理解する
↓
関係の質を高める|信頼や相互尊重を育む
↓
思考の質を高める|多様な視点やアイデアが生まれる
↓
行動の質を高める|主体的な行動や協働につながる
↓
結果の質を高める|より良い成果につながり、次の好循環へ
成果を高めたいとき、行動や結果だけに目を向けるのではなく、メンバーが安心して考えを伝え合える関係があるかを見つめ直してみる。
そのために、相手が大切にしていることに耳を傾けてみる。
お互いの「なぜ」を知り、違いを理解し合うこと。
そんな日々の対話が、組織の成功循環を動かす一つのきっかけになると、私たちは考えています。
【参考文献】
Daniel H. Kim, “What Is Your Organization’s Core Theory of Success?”, The Systems Thinker, Vol. 8, No. 3, April 1997.
「一人ひとりが未来や可能性に胸ときめかせ、ワクワクしながら働ける”ワクワーク”な社会を創る」ことを私たちはミッションに掲げ、働きがいの高まる場を増やしていきたいと考えています。