先日、こんなご相談をいただきました。
「最近プロジェクトリーダーを任されたのですが、
チームメンバーの経験年数や性格がバラバラで、
どう接したらいいか悩んでいます」
初めてリーダーになった方から、よくいただくご相談です。
同じように指示を出しているつもりなのに、Aさんには伝わり、Bさんには届かない。丁寧に説明したところ、「そこまで細かく言われなくても分かります」と受け取られる。一方で、本人を信頼して任せたつもりが、「放っておかれた」と感じさせてしまう。
こうしたすれ違いの原因は、部下の能力や意欲だけにあるとは限りません。
リーダーの関わり方が、相手の現在の状態に合っていない可能性があります。
そのようなとき、マネジメントの手がかりになるのが、SL理論という考え方です。
SL理論とは──リーダーの「資質」ではなく「状況」に着目する
SL理論(Situational Leadership/状況対応型リーダーシップ)は、ポール・ハーシィとケン・ブランチャードによって提唱されたリーダーシップ理論です。半世紀以上にわたり、リーダー育成やマネジメントを考える際の代表的な理論の一つとして活用されています。
この理論の中心にあるのは、「あらゆる場面で通用する、唯一最善のリーダーシップスタイルはない」という考え方です。
かつては「右向け右、左向け左」といった統率型のリーダーがチームを引っ張ることが、成功の秘訣だとされた時代がありました。しかし、働く人の価値観や経験、雇用形態、働き方が多様化した現在、たった一つのリーダーシップスタイルで、すべてのメンバーに対応することは困難です。
そこでSL理論では、リーダー自身の性格や資質だけではなく、部下の成熟度(レディネス)に着目します。
レディネスとは、次の2つの要素で捉えます。
- 能力面:知識、技術、経験
- 意欲面:やる気、自信、責任感
この2つがどの程度そろっているかによって、部下の段階をR1からR4までの4段階で整理します。
一方、リーダーの行動は、次の2つに分けて考えます。
- 指示的行動:仕事の方法、手順、期限、役割などを具体的に伝える
- 支援的行動:相手の話を聴き、質問し、励まし、意思決定への参加を促す
この2つの行動の強弱を組み合わせたものが、4つのリーダーシップスタイルです。
SL理論における4つのリーダーシップスタイル
| スタイル | 対象となる部下の状態 | 部下の特徴 | リーダーの関わり方 | 具体的な声かけ |
|---|
| S1:教示型 | R1:新人レベル | 知識・経験・スキルが少なく、意欲や自信もまだ十分ではない | 仕事の手順や期限を具体的に伝え、こまめに進捗を確認する | 「まずはこの手順で進めてください」「15時に一度確認しましょう」 |
| S2:説得型 | R2:若手レベル | 知識や経験はまだ十分ではないが、意欲ややる気が高まっている | 指示を出しながら、仕事の目的や理由を説明し、質問を受ける | 「この方法にする理由は〇〇です」「分からない点はありますか」 |
| S3:支援型 | R3:中堅レベル | 知識や経験はあるが、自信や意欲に揺らぎがある | 指示を減らし、本人の考えを引き出して意思決定を支援する | 「あなたはどう考えますか」「どの進め方がよいと思いますか」 |
| S4:委任型 | R4:ベテランレベル | 知識・経験・意欲・責任感が高く、自律的に業務を遂行できる | 目的や期待する成果を共有し、進め方や判断を本人に任せる | 「進め方は任せます」「必要なタイミングで報告してください」 |

なお、「新人レベル」「若手レベル」「中堅レベル」「ベテランレベル」という表現は、理解しやすくするための目安です。
実際には、年齢や社歴ではなく、その人が担当する特定の業務に対して、どのような状態にあるかを見極めることが重要です。
新人レベル(R1)には教示型(S1)

新人レベル(R1)は、その業務に必要な知識や経験が少なく、何から始めればよいのか分からない状態です。
新入社員だけではなく、初めて担当する仕事に取り組む社員や、異動直後の社員も該当します。
この段階では、「まずは自分で考えてみて」と伝えても、相手は何を基準に考えればよいのか分かりません。そのため、仕事の目的、完成イメージ、手順、期限、注意点を具体的に伝える必要があります。
例えば、「提案資料を作っておいて」と伝えるのではなく、次のように依頼します。
「過去の資料を参考に、顧客の課題、提案内容、期待できる効果の順に、5ページ程度でまとめてください。明日の15時に一度確認しましょう」
教示型とは、一方的に命令することではありません。相手が迷わず行動できるように、必要な情報と進め方を明確にする関わり方です。
若手レベル(R2)には説得型(S2)
若手レベル(R2)は、知識や経験はまだ十分ではないものの、「やってみたい」という意欲が高まっている状態です。
この段階では、具体的な指示に加えて、仕事の目的や背景を説明することが重要です。単に「この方法で進めてください」と伝えるのではなく、「なぜこの方法なのか」まで説明します。
「今回はこの手順で進めてください。この方法にする理由は、後工程の担当者が数字を比較しやすくなるからです。分からない点や不安な点はありますか」
理由を理解することで、部下は目の前の作業だけではなく、仕事全体のつながりを考えられるようになります。指示だけで終わらせず、質問を受け、納得感を高めることが、次の成長につながります。
中堅レベル(R3)には参加型(S3)
中堅レベル(R3)は、その業務を行うための能力や経験は十分にある一方で、自信や意欲が揺らいでいる状態です。
この段階の部下に細かな指示を出し続けると、「自分は信頼されていない」と感じさせる可能性があります。リーダーに求められるのは、答えをすぐに教えることではなく、相手の考えを引き出すことです。
「あなたはどう考えていますか」
「どのような選択肢がありますか」
「それぞれのメリットとリスクは何でしょうか」
このような問いかけによって、本人が自分の考えを整理し、意思決定できるように支援します。必要に応じて一緒に考えますが、判断の主体は本人に置くことが大切です。
ベテランレベル(R4)には委任型(S4)

ベテランレベル(R4)は、その業務に必要な知識、経験、意欲、自信が十分にあり、自律的に成果を出せる状態です。この段階では、仕事の進め方や日々の判断を本人に任せます。
ただし、委任は丸投げではありません。 仕事の目的、期待する成果、期限、権限の範囲、報告のタイミングを共有したうえで任せることが重要です。
「今回のプロジェクトは、納期までに顧客の合意を得ることがゴールです。進め方は任せます。大きな変更がある場合と、中間地点で一度報告してください」
十分な能力を持つ部下に対して、上司が細かな指示を続けると、主体性や意思決定のスピードを損ないます。任せられる相手には思い切って任せることも、重要なリーダーシップです。
【注意点①】スタイルがズレると、部下の成長を妨げる
SL理論を実務で活用するうえで重要なのが、相手の状態とリーダーシップスタイルを合わせることです。
例えば、何も知らない新人に「まずは自分で考えてみて」と伝えたら、どうなるでしょうか。
本人にとっては、何を考えればよいのかすら分からない状態です。主体性を引き出すつもりの問いかけが、相手には「放置された」と受け取られるかもしれません。
一方、十分な経験を持つベテランに、一から細かな指示を出せば、「そこまで言われなくても分かる」と感じさせ、意欲を下げてしまう可能性があります。
同じ「自分で考えてみて」という言葉でも、相手の状態によって、受け取られ方と効果は大きく変わります。
質問を受けながら進める説得型(S2)のリーダーシップスタイルも同様です。
ある程度の経験があり、意欲が高まってきた若手であれば、「なぜこの方法なのか」を説明することで、具体的な質問が出てきます。
しかし、教示型(R1)の段階では、そもそも何が分からないのか、何を質問すればよいのかを整理できないことがあります。だからこそ、まずは具体的に教えることが必要です。
重要なのは、「教えるか、任せるか」という二択ではありません。相手の状態を見ながら、指示と支援の量を調整することです。
【注意点②】レディネスは、業務内容によって変わる
もう一つ、見落とされやすいポイントがあります。
レディネスは、その人に固定された属性ではなく、その業務に対する現在の状態だということです。
例えば、ある会社で10年間、経理業務を担当してきた社員が、営業部門へ異動したとします。
社歴だけを見れば、中堅やベテランといえるでしょう。しかし、顧客へのヒアリングや提案、商談の進め方については、経験が十分ではないかもしれません。
会社全体のことはよく理解していても、営業という業務においては、新人レベル(R1)や若手レベル(R2)の状態にある可能性があります。
つまり、長く勤めているからベテランレベル(R4)になるわけではありません。
これは、年上の部下や、他部署から異動してきたメンバーと接するときにも重要です。
相手の年齢や社歴に遠慮して、最初から委任型で接した結果、本人が困っていることに気づけなかった。そのようなすれ違いは、決して珍しくありません。
接し方に迷う相手ほど、「社歴」ではなく、この業務における現在のレディネスで捉え直してみてください。
【注意点③】部下の状態は、固定されていない
レディネスは、一度見立てたら終わりではありません。
経験を積めば能力は高まりますが、逆に、大きな失敗や環境の変化によって、自信や意欲が低下することもあります。昨日まで中堅レベル(R3)だった人が、担当変更をきっかけに、若手レベル(R2)の状態に戻ることもあり得ます。
そのため、リーダーシップスタイルも、一度決めたら終わりではありません。状況の変化に合わせて、柔軟に変えていく必要があります。
まずは、一人の部下への関わり方から見直してみる

今のメンバー一人ひとりに対する自分の関わり方は、相手の「現在の状態」に合っているでしょうか?
一度立ち止まり、普段の接し方を振り返ってみるだけでも、これまでとは違った見え方ができるかもしれません。
「この部下には、どのように関わればよいのだろう」
そう感じる相手が思い浮かんだら、それは関わり方をアップデートするサインです。
まずは、次の4つのステップで見直してみましょう。
1.業務を、確認できる単位まで分ける
「営業力」や「マネジメント力」のような大きな言葉ではなく、「初回の商談で顧客の課題を整理する」「月ごとに会議を進行する」など、行動を確認できる単位に分けます。
2.その業務における、能力と意欲を見立てる
メンバー一人ひとりについて、その業務に対する経験、必要な知識やスキル、本人の自信や意欲が、いまR1〜R4のどの段階にあるのかを考えます。日常の観察や1on1などの対話が手がかりになります。
3.現在の関わり方と照らし合わせる
そのメンバーに対して、自分が「具体的に教えている」「理由を説明している」「一緒に考えている」「本人に任せている」のうち、どの関わり方をしているかを振り返ります。見立てた段階とズレていないでしょうか。
4.ズレがある相手を一人選び、関わり方を変えてみる
すべてを一度に変える必要はありません。まずは一人を選び、声のかけ方や任せ方を少しだけ変えてみる。そして一定期間後に、また見直します。
なお、この見直しは「人」ではなく「人×業務」で行うことが大切です。同じメンバーでも、慣れている業務では任せられる一方、初めての業務では具体的な指示が必要なことがあります。人を固定的に分類しないよう、業務や場面ごとに捉え直してみてください。
リーダーシップとは、自分の得意な型を貫くことではなく、相手の成長や状況に合わせて、自分の関わり方を変えていくことです。
SL理論は、部下を4つのタイプに分類するためのものではありません。いまの関わり方が相手に合っているかを振り返り、マネジメントをアップデートするための視点です。
まずは明日、気になるメンバー一人への声のかけ方や仕事の任せ方を、少しだけ変えることから始めてみてはいかがでしょうか。その小さな変化が、部下の成長を促し、チーム全体の力を引き出す第一歩になるはずです。
「一人ひとりが未来や可能性に胸ときめかせ、ワクワクしながら働ける”ワクワーク”な社会を創る」ことを私たちはミッションに掲げ、働きがいの高まる場を増やしていきたいと考えています。